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2019.02.01

確約手続(確約制度)の概要とポイント(弁護士 野田 学)

環太平洋パートナーシップに関する協定(TPP協定) および環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)の締結に伴い、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」)が改正され、独禁法違反の疑いについて、公正取引委員会と事業者との間の合意により自主的に解決するための手続(以下「確約手続」)が導入されました(平成30年12月30日施行)。同制度は、競争上の問題の早期是正や、公正取引委員会と事業者が協調的に問題解決を行う領域を拡大し独占禁止法の効率的かつ効果的な執行に資するものとされています。

 また、公正取引委員会は、これに先立って平成29年1月29日に「公正取引委員会の確約手続に関する規則」の制定を、平成30年9月26日に確約手続に係る法運用の透明性及び事業者の予見可能性を確保する観点から、「確約手続に関する対応方針」(以下「対応方針」)の策定及び「企業結合手続に関する対応方針」の一部改定を行っており、これらも確約手続とあわせて施行・適用されています。
ここでは、新たにスタートした「確約手続」について、おさえておきたい「5つのポイント」を説明したいと思います。

ポイント1.確約手続(確約制度)とはそもそもどのようなものか(手続の流れ)

確約手続は、公正取引委員会と事業者との「合意」により自主的に独禁法違反の疑いを解決するための手続です。
たとえば、ある会社が締結している契約について、「再販売価格の拘束」に該当し、独禁法に違反する疑いがあるとして、公正取引委員会が調査を開始したとしましょう。
これまでの手続(下記の図の「通常手続」)の場合、調査を開始した後は、意見聴取手続→排除措置命令・課徴金納付命令→不服がある場合は訴訟、という流れにより進んでいました。
しかし、確約手続による場合は、事業者が自主的に定める計画の中で、問題となっている条項を削除するなどの解決策を提案し公正取引委員会との間で合意することにより、排除措置命令・課徴金納付命令を受けないようにする、といったことが可能となります。事業者が、独禁法違反の疑いを解消するために、自主的に採り得る措置を提案し、公正取引委員会との間で相談しながら進めることができるため、これまでよりも迅速に解決を図ることができると期待されています。
以下、もう少し具体的に流れを見てみます。

確約手続(確約制度)の概要とポイント(弁護士 野田 学)※「独占禁止法に導入される確約手続の概要」(公正取引委員会)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/sep/kakuyaku/08.pdf)を加工して作成。

①確約手続通知
公正取引委員会は、「公正かつ自由な競争の促進を図る上で必要があると認めるとき」には、独禁法違反の疑いの理由となった行為(以下「違反被疑行為」)をしている事業者に対して、違反被疑行為の概要・法令の条項等を、「通知」(以下「確約手続通知」)することができます(独禁法48条の2)。

②確約計画の作成・申請
確約手続通知を受けた事業者は、違反被疑行為を排除するために必要な措置を、自ら策定し実施しようとするときは、通知の日から「60日」以内(不変期間)に、実施しようとする措置に関する「確約計画」(※1)を、自主的に作成・申請することができます(独禁法48条の3第1項及び第2項)。
申請を行わない場合は、確約手続通知を行う前の調査(通常手続)を再開することとなりますが、申請をしなかったとしても、その後の調査において、申請をしなかったことを理由として事業者が不利益に取り扱われることはありません(対応方針6)。

※1 法律の文言は「排除措置計画」ですが、ここでは、公正取引委員会の策定した対応方針等の記載にあわせて、「確約計画」としています。

③認定
公正取引委員会は、確約計画が、
(1) 違反被疑行為を排除するために十分なものであること(措置内容の十分性)
(2) 確実に実施されると見込まれるものであること(措置実施の確実性)
のいずれにも適合すると認めるとき、確約計画を「認定」します(独禁法48条の3第3項)。

④排除措置命令及び課徴金納付命令が行われない
公正取引委員会が確約計画の「認定」をした場合、当該認定に係る違反被疑行為については、排除措置命令及び課徴金納付命令の規定が適用されません(独禁法48条の4)。
つまり、当該違反被疑行為について、排除措置命令及び課徴金納付命令が行われないことになります。

このように、確約手続は、事業者が「確約計画」を自主的に作成・申請し、公正取引委員会がこれを「認定」するというプロセスを通じ、両者の「合意」によって違反被疑行為を解決する制度です。

ポイント2.確約計画に記載する確約措置とは(措置内容の十分性と措置実施の確実性)

確約計画が認定されるためには、確約計画に記載する排除措置又は排除確保措置(以下「確約措置」)が、(1) 措置内容の十分性、(2) 措置実施の確実性を満たすことが必要です(独禁法48条の3第3項、対応方針6(3)ア)。
公正取引委員会は、確約措置の典型例として、次の7つの例を挙げていますが、これらはあくまで「例」であって、措置がこれらに限られるものではなく、また、一律に7つの措置が全て必要であるとも考えていないようです。7つの例のそれぞれの文末は、措置内容の十分性又は措置実施の確実性を満たすために、「必要な措置の一つである」「必要となる場合がある」「有益である」という3種類の表現により、書き分けられています(対応方針6 (3)イ。「確約手続に関する対応方針」(案)に対する意見の概要及びそれに対する考え方〔以下「パブコメ」〕No.32)。

①違反被疑行為を取りやめること又は取りやめていることの確認等(取締役会等の意思決定機関においてこれらを決議すること)
⇒措置内容の十分性を満たすために「必要な措置の一つである」

②取引先等への通知または利用者等への周知
⇒措置内容の十分性を満たすために「必要となる場合がある」

③コンプライアンス体制の整備(定期的な監査及び従業員に対する社内研修の実施等)
⇒措置実施の確実性を満たすために「必要となる場合がある」

④契約変更(違反被疑行為に該当する契約内容を変更)(※2)
⇒措置内容の十分性を満たすために「必要となる場合がある」

⑤事業譲渡等(競争事業者の株式の保有等をすることが違反被疑行為に該当する場合など)
⇒措置内容の十分性を満たすために「必要となる場合がある」

⑥取引先等に提供させた金銭的価値の回復(収受した利得額や負担させた実費損害額を返金する等)
⇒措置内容の十分性を満たすために「有益である」

⑦履行状況の報告(自ら、又は確約措置の履行状況の監視等を委託した独立した第三者〔いわゆるトラスティ〕が、公正取引委員会に対して確約措置の履行状況を報告する等)
⇒措置実施の確実性を満たすために「必要な措置の一つである」

※2 確約認定申請時までに契約変更の合意を成立させなければ、原則として、措置実施の確実性を満たすと認めることはできないとされています(対応方針6(3)ア(イ))。

ポイント3.確約手続の対象とならない場合があることに注意

公正取引委員会は、
①入札談合、受注調整、価格カルテル、数量カルテル等(いわゆるハードコアカルテル)
②過去10年以内に同一の条項の規定に違反する行為について法的措置を受けたことがある場合(繰り返し違反)
③刑事告発の対象となり得る国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な違反被疑行為
については、違反行為を認定して法的措置を採ることにより厳正に対処する必要があるため、確約手続の対象としないとしています(対応方針5)。
したがって、これら①~③の場合には、確約手続は使えませんので、たとえば、繰り返し違反でない私的独占や不公正な取引方法等において活用されることとなります。

ポイント4.公正取引委員会との“相談”が重要

確約手続をより迅速に進める観点から、独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会から独占禁止法に基づく調査を受けている事業者は、いつでも、調査を受けている行為について、
①確約手続の対象となるかどうかの確認
②確約手続に付すことを希望する旨の申し出
③確約計画の内容や検討期間の確保等に関すること
などを公正取引委員会に相談することができるとされています(対応方針3、パブコメNo.4)。
また、確約手続通知が行われた後においても、事業者が求めることにより、公正取引委員会は、
④その時点における認定における論点等について説明する
としています(対応方針8(1))。
確約手続を用いる場合は、上記のような相談を積極的に活用することが重要です。

ポイント5.公表(認定後)について

確約計画の認定をした後、公正取引委員会は、具体的にどのような行為が公正かつ自由な競争に悪影響を与える可能性があるのかを明らかにし、確約手続に係る法運用の透明性及び事業者の予見可能性を確保する観点から、①認定確約計画の概要、②当該認定に係る違反被疑行為の概要その他必要な事項を、公表するとしています。
公表に当たっては、「独禁法の規定に違反することを認定したものではないこと」を付記するとしています。
なお、確約認定申請が「却下された」場合、確約計画の認定が「取り消された」場合、確約認定申請を「取り下げた」場合等については、原則としていずれも公表しないこととされています。
(以上につき、対応方針11参照。)

終わりに

以上、確約手続(確約制度)の概要とポイントについてのご説明でした。
対応方針やパブコメの中でも、「事業者との間の意思疎通」という表現が繰り返し用いられているなど、公正取引委員会は、事業者側とのコミュニケーションを重視していることがうかがえます。確約手続を用いる場合は、ポイント4でもご説明した、公正取引委員会への「相談」を積極的に利用するなどして、適切に対応することが望まれます。

参考:公正取引委員会ホームページ

平成31年2月記

執筆担当者:弁護士 野田 学
略歴:2009年弁護士登録、当事務所入所。2015年から、公正取引委員会事務総局審査局訟務官付の任期付公務員として、主に審判・訴訟対応、審査業務等を担当。2018年より当事務所に復帰し、独占禁止法、下請法等を含む企業法務に関する業務を行う。