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2020.01.29

事業承継の現状と課題-成功のポイント- (弁護士 石井 達也)

中小企業は、日本の経済・社会の基盤を支える存在です。2016年6月時点で、日本の全企業約359万社のうち、中小企業が約358万社(約99.7%)であり、従業員数では、日本の約4679万人の従業者数のうち、約3220万人(約68.8%)が中小企業に従事しています(「2019年版 中小企業白書」(2019年6月、中小企業庁)参照)。しかしながら、その多くが、後継者不在の問題に悩んでいるといわれています。本稿では、事業承継の現状と課題について、簡単にご紹介したいと思います。

1 事業承継の現状

事業承継とは、後継者が現経営者から会社の経営を引き継ぐことを意味します。
中小企業では、経営者自身の経験・知識・技術・人脈などが会社の経営基盤そのものとなっていることが多く、「後継者を誰にすべきか?後継者にどのように経営基盤を引き継がせるか?」というのが重要な課題となっています。
現在、中小企業の経営者の高年齢化の傾向はますます進んでいます。中小企業の経営者の年齢の分布をみると、最も多い経営者の年齢は1995年では47歳でしたが、2018年には69歳となっています(図表1参照)。

一方で、中小企業経営者の引退年齢は、平均では67~70歳程度であるとされていることから(「中小企業の事情承継に関するアンケート調査」(2012年11月、野村総合研究所))、今後5年程度で、多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えることが想定されます。したがって、事業承継は、まさに喫緊の課題といえます。

2 事業承継の課題

(1) 後継者の確保

上記の現状からして、中小企業にとっては、まずは後継者を確保することが課題となっています。
日本政策金融公庫総合研究所の2016年の調査によれば、調査対象企業約4000社のうち60歳以上の経営者の約半数が廃業を予定しているとされ、その約3割は後継者がいないことが理由になっています(図表2参照)。

出典:「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(2016年2月、日本政策金融公庫総合研究所)再編加工

後継者の選定にあたっては、能力、経験、会社経営に対する熱意等から、経営者としての資質を見極めます。一般的には、長男等の親族が指名されるのが通常ですが、近年は、親族に適切な承継者がいない等の理由から、社内の役員・従業員や、社外の第三者に承継するケースも増えてきています(事業承継の手法については後記(3)をご参照ください。)。

(2) 早期の取り組みの重要性

事業承継の成功のためには、早期に、後継者の確保を含む準備に着手することが必要です。
この点、中小企業庁が平成28年に策定・公表した「事業承継ガイドライン」では、事業承継の実行まで5つのステップで構成されるとしています(図表3参照)。

図表3 事業承継実行までの準備

出典:「事業承継ガイドライン」(2016年12月、中小企業庁)再編加工

すなわち、まずは現経営者が事業承継に向けた準備の必要性・重要性をしっかりと認識した上で(ステップ1)、後継者が跡を継ぎたくなるような会社に引き上げるべく、経営状況や経営課題等を把握し(ステップ2)、これを踏まえて事業承継に向けた経営改善に取り組んで(ステップ3)、事業承継に向けて中小企業の足腰を固める必要があります。その後、親族又は役員・従業員を後継者とする場合には、事業計画や資産の移転計画を含む事業承継計画を策定しますし、他方、社外への引継ぎを行う場合には、引継ぎ先を選定するためのマッチングを実施し、合意に至ればM&A等を実行することとなり(ステップ4)、晴れて事業承継の完了に至ることになります(ステップ5)が、これらの取り組みには相当の時間がかかります。
また、親族又は役員・従業員を後継者とする場合に特に問題となりますが、突然後継者に事業を承継させても経営がうまくいくはずがありませんので、現経営者が存命のうちから後継者の育成に取り組む必要があります。後継者の育成には5~10年かかると一般的に言われておりますので(「事業承継実態調査 報告書」(平成23年3月、独立行政法人中小基盤整備機構))、この点からも、事業承継の準備には早期に取り組む必要があるといえます。

(3) 事業承継の手法の選択

一般的に、現経営者の子をはじめとした親族に承継させる方法を「親族内承継」、親族以外の役員・従業員に承継する方法を「従業員承継」、株式譲渡や事業譲渡等により社外の第三者に承継する方法を「第三者承継(社外への引継ぎ)」といいます。
これらの手法には、概要、以下のメリット等がありますので(図表4参照)、専門家の支援を受けながら最も適切な手法を選択した上で、各留意点を乗り越える必要があります。その詳細については別稿でご紹介できればと思いますが、例えば、親族内承継であれば、現経営者から後継者に対し、株式や事業用資産を相続により移転することが一般的ですが、相続人が後継者のみであればともかく、そうでない場合には、相続により株式や事業用資産が分散しないよう、「事前の対策」をとる必要があります。

図表4 各方法のメリットと主な留意点

 

メリット

主な留意点

親族内承継 ・一般的に他の方法と比べて、内外の関係者から心情的に受け入れられやすい
・後継者の早期決定により長期の準備期間の確保が可能
・後継者の相続税負担への対応が必要
・相続人が複数いる場合、株式・事業用資産が分散しがち
従業員承継 ・社内で長期間働いてきた役員・従業員であれば経営方針等の一貫性を保ちやすい ・後継者候補に株式取得等の資金力が必要
・個人債務保証の引継ぎの可否が問題になる
第三者承継 ・親族や社内以外から、広く候補者を外部に求めることができる
・現経営者は会社売却の利益を得ることができる
・M&Aの専門的な知識が必要
・株式譲渡の場合、簿外債務が承継されるリスクがある

3 まとめ

事業承継を行うにあたっては、その手法の選択を含め準備から実行段階に至るまで、様々な課題があります。
雇用や地域経済を支える中小企業においては、弁護士、中小企業診断士、税理士等をはじめとした専門家の支援も受けながら、適切に事業承継を行うことが必要と考えます。

(令和2年1月記)

執筆者:弁護士/中小企業診断士 石井達也
略 歴:2011年弁護士登録、当事務所入所。2015年7月、新日鐵住金㈱(現 日本製鉄㈱)に出向し、主に、M&A、企業間紛争対応、コンプライアンス対応等を行う。2018年7月に当事務所復帰。2019年11月に中小企業診断士として登録し、上場企業のみならず中小企業への総合的な支援も行う。