Voice

所属弁護士の声

2020.06.29

弁護士業務のIT化 (弁護士 土田 悠太)

今般の新型コロナウイルス感染症の影響もあり、各方面において、業務のリモート化・IT化が推進されているようです。司法の分野も例外ではなく、もともと進められることとなっていた民事裁判手続等のIT化について、さらなる進展が急務となっているほか、当事務所においても、少しずつ進めていたIT化がますます加速しています。
そこで、本稿では、裁判手続等のIT化の状況と、当事務所のIT化事情について、ごく簡単にご紹介したいと思います。

◆ 民事裁判手続等のIT化

諸外国と比べて民事裁判手続等のIT化が遅れていた日本では、政府の「未来投資戦略2017」(2017年6月9日閣議決定)においてIT化が推進されることとされ、これを受け、2017年10月に「裁判手続等のIT化検討会」が設置されました。

同検討会での議論を経て、日本における民事裁判手続等のIT化は、次の3つのIT化を柱に進められることとなりました(裁判手続等のIT化検討会『裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ―「3つのe」の実現に向けて―』7頁~11頁)。

① 訴訟、答弁書、準備書面等の裁判所類及び証拠をオンライン提出することを可能とする(e提出)

② 口頭弁論期日、弁論準備手続期日等の裁判手続を当事者等の裁判所への出頭に換えてウェブ会議を活用して実施することを可能とする(e法廷)

③ 裁判所が管理する事件記録や事件情報につき、訴訟当事者本人及び訴訟代理人の双方が、随時かつ容易に、訴状、答弁書その他の準備書面や証拠等の電子情報にオンラインでアクセスすることを可能とする(e事件管理)

これらの施策は、現行法のまま実現できるものから、法改正が必要となるものまで様々であるため、段階的に実行していく計画となっています。
すでに、2020年2月からIT化の第一弾(フェーズ1)が開始しており、一部の裁判所では、従前実施されていた弁論準備手続期日における電話会議(民事訴訟法170条3項)に加えて、ITツールを利用したウェブ会議が新たに導入されました。
なお、ITツールとしては、マイクロソフト社のMicrosoft Teamsが活用されています。


(出典:裁判手続等のIT化検討会『裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ―「3つのe」の実現に向けて―』20頁)

フェーズ1は、電話会議をウェブ会議に代替しただけで、IT化として大きな改革とはなっていません。もっとも、弁護士は、裁判官や相手方の表情等を観察したうえで、期日でのやり取り等を依頼者に報告できるようになりましたので、この点は、電話会議と比較した場合のメリットといえるかもしれません。また、従来の電話会議は、当事者の一方が期日に出頭している必要がありましたが(民事訴訟法170条3項ただし書)、今後は、書面による準備手続(民事訴訟法175条)を活用することによって、当事者双方が裁判所に出頭せずにウェブ会議を実施することも増えそうです。

ちなみに、報道によれば、2020年2月に134件、同年3月には346件のウェブ会議が実施されたようですが、同年4月の緊急事態宣言の発令を受け、全国の裁判所では、緊急性の高い事案を除く審理の多くが停止してしまいました。緊急事態宣言が解除されたことに伴い、東京地方裁判所では、2020年6月1日以降、順次期日等が再開されていますが(2020年6月30日現在)、新型コロナウイルス感染症の第2波が発生した場合には、再び審理が停止する可能性があります。ウェブ会議のさらなる活用に期待したいところです。

◆ 当事務所のIT化

「IT化」といってしまうと大げさですが、当事務所の業務にも少なからず「IT化」の流れが生じています。

まず、お客様との打合せは、これまで対面形式で行うことが多かったのですが、(ご要望に応じて)Microsoft Teams、Skype、Zoom等を利用したウェブ会議によって行う機会が増えてきました(特に、緊急事態宣言下においては、ほぼすべてがウェブ会議の方式でした。)。導入当初は、上手くコミュニケーションをとれるか心配でしたが、ウェブ会議でも、お互いの表情を見ながら会話をすることができ、また、画面共有によって同じ資料を見ながら議論することも可能ですので、今のところ、特段の支障は感じていません。
今後は、お客様のニーズに応じて、ウェブ会議による打合せも増えていくのではないでしょうか。

さらに、ITツールの導入は、事務所内の働き方にも影響しています。例えば、自宅や外出先から事務所内の会議にウェブ参加したり、事務所外活動(例えば、弁護士会の委員会活動や法科大学院における講義)をウェブで実施したりする弁護士も増えており、各自の予定調整がしやすくなった面があるように思います。リモートワークをする場合、資料や文献等の持ち運びが課題となりますが、これらを電子データ化してクラウド上で管理したり、或いは、電子書籍やLEGAL LIBRARY等のリサーチツールを積極的に利用することで対応している者もいるようです。
また、事務所内では、アソシエイトや島(当事務所では、弁護士の座席配置が弁護士4名程度ごとの「島」に分かれています。)ごとのチャットグループも作成され、自ずと情報交換(雑談多めですが笑)の機会が増えたことも、一つのメリットといえるかもしれません。

個人事件の業務では(当事務所では、アソシエイト弁護士が、事務所事件だけでなく、個人で事件を受けることも推奨されています。)、電話やメールではなく、SlackやChat Workといったチャットツールを利用したやり取りも増えてきました(弁護士によりますが、当事務所でも、相当な割合をチャットツールでこなしている者もいるようです。)。
私の場合も、顧問先の企業様からChat Workを導入してほしいとのご提案があったため、昨年からChat Workを利用してやり取りを行っています。実際に使用してみると、プロジェクト・案件ごとにグループチャットを作成することができるため、過去のやり取りの内容を確認しやすく、メールや受領資料の振り分けも不要となるので、使い勝手が良いと感じています。
また、お客様からも、電話やメール等でやり取りするのと比べて、気軽に相談できるようになったとの声をいただきました。

裁判手続も、弁護士業務も、利用者のニーズに応えながらIT化を図っていく必要があると思いますので、是非お気軽にご提案いただければと思います。

(令和2年6月記)

執筆担当者:弁護士 土田悠太
略歴:2016年弁護士登録、当事務所入所。