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所属弁護士の声

2008.03.01

そばツアー(弁護士 星 大介)

私は、蕎麦屋は蕎麦を食べるだけのところだと思っていました。実務修習時代に住んでいた長野でも、たくさんの蕎麦屋に行きましたが、蕎麦を食べ、蕎麦湯を飲み、蕎麦茶を飲んで帰っていました(東京との違いを1つ挙げるとすれば、「大盛り」の量が圧倒的に多いということでしょうか。)。蕎麦屋は蕎麦を食べるところには違いないのですが、最近になって蕎麦屋には蕎麦以外にも味わうべきところがあり、それを知って、より蕎麦がおいしく食べられるということを知りました。そのきっかけは、一昨年の11月に、当事務所のパートナー弁護士に連れて行ってもらった「蕎麦ツアー」でした。「蕎麦ツアー」とは、その名の通り、おいしい蕎麦屋をハシゴして、お酒を飲み、蕎麦を食べるといったものです。前代表弁護士の故坂野滋先生が蕎麦を好まれていたため、昔はしばしば「そばツアー」をしたと聞いています。

 私は、ちょうど新蕎麦の季節だからということで、当然「蕎麦を食べに行く」のだろうと思っていました。しかし、最初に行った蕎麦屋では、菊正宗の樽酒を飲みながらと焼き海苔、いたわさ、鴨、卵焼きなどの酒の肴を食べ、ようやく最後になって蕎麦を食べました。「どうやら、蕎麦屋はお酒を飲むところであって、蕎麦は最後のシメとして食べるだけのところらしい」、と思われました。そのなかで、まず目を惹かれたのは焼き海苔でした。木製の箱の中に焼き海苔が入っているだけなのですが、その箱の内部は2段構造になっていて、下段には熱された炭が入っているため、上段に入った焼き海苔をパリパリのまま食べられるのです。蕎麦屋で焼き海苔といえばこういうものだということでしたが、「食べさせ方が粋だなぁ」と感動しました。何より驚きだったのは、蕎麦屋で飲んだお酒のおいしさでした。私は、もともとあまりお酒が飲める方ではないのですが、菊正宗の樽酒は、杉の香りがよくて、大変飲みやすく、ついつい飲みすぎてしまいました。「なるほど、蕎麦屋はやはりお酒を飲むところだったのか」、と納得しました。そして、シメの蕎麦は、どの蕎麦屋のものもおいしく、蕎麦を油で揚げた巣ごもり蕎麦など変わった蕎麦もありました。おいしくお酒をいただいた後は、蕎麦の香りが風味豊かな蕎麦がツルツルっと喉に入ってきてその食感も絶妙でした。蕎麦屋はお酒を飲むところかもしれませんが、「おいしい蕎麦があるから蕎麦屋で飲むのだ」、といったところでしょうか。

どの料理もそうかもしれませんが、おいしい蕎麦は材料となる蕎麦粉の選定から蕎麦打ち、器選びや盛り付けまで丁寧な仕事をして完成する職人色の強い料理ではないかと思います。そして、ちょっとした工夫を施した粋な肴や香り高い樽酒など個性豊かなメンバーが蕎麦のおいしさを引き立てているのかもしれません。このような丁寧な仕事や、また、個性や持ち味を生かして仕事に磨きをかけるということは何事にも通じる大事なことのように思います。弁護士にも同じといえるかもしれません。当事務所をそのような目で見たときに、持っている雰囲気も含めて「そばツアー」で行った老舗蕎麦屋と重なるところも多いのではないかと思います。「江戸の老舗蕎麦屋のような法律事務所」というのはあまりカッコいいフレーズではありませんが、「東京八丁堀法律事務所とはどのような事務所か?」と問われたときには、そのような答えも1つの正解かもしれません。

(平成20年3月記)