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所属弁護士の声

2010.11.29

法科大学院(弁護士 金澤 嘉明)

新司法試験を受験するためには、原則として法科大学院に入学し、卒業しなければなりません。法科大学院制度は、法曹人口の拡大や裁判員制度と並ぶ司法制度改革の大きな柱として、平成14年3月に司法制度改革推進計画で閣議決定され、導入することが決まりました。

  現在、法科大学院制度を含む法曹養成制度については、様々な議論がなされていますが、ここではそれらの点を措くとして、法科大学院出身者である私が、法科大学院ではどのような教育が行われているのか(もちろん、各法科大学院によって、教育方針等に特色があると思いますので、以下で述べることは、あくまで、私の出身校である横浜国立大学法科大学院で経験した範囲で、ということになります。)、また、どのような学生生活を送っていたのかについて、お伝えしたいと思います。

まず、私が感じたことは、教授と学生の距離が非常に近いということです(これは、裏を返せば、教授非常に熱心であり、また、それに応えようとする学生が多いということかもしれません。)。例えば、法科大学院では、2年次から多くの演習科目が設定されています。担当の教授によって、演習の進め方は異なりますが、多くの授業では、一定の題材が与えられ、それに対して学生が事前に起案をし、教授は学生の起案を採点した上(しかも、かなり細かくコメントをつけて採点してくれる教授もいました。)で授業が行われます。授業では、その題材における論点等について議論をするわけですが、1コマ90分の枠を優に超えて議論が続くことも珍しくありませんでした。なお、法科大学院では、教授が一方的に学生に向かって講義をするという授業は少なく、双方向でどんどん学生に質問をし、学生はそれに対して答えていくという方式がとられていましたので、一瞬の気も許せません。当然、予習不足であれば、教授の質問に答えられませんので、学生は与えられた題材の問題となる点について、基本書や論文等を読み込んだ上、授業に臨むことになります。法科大学院では、このような演習科目が多数設定されているため、非常に予習が大変であったことを今でも記憶しています。

次に、非常に実務的な科目が多いということが挙げられます。法科大学院について「理論と実務の架橋」という言葉がしばしば用いられますが、法科大学院では、実務の基礎的な部分について教育をする(法科大学院制度が始まるまでは、司法試験に合格した後、司法研修所にて前期修習というものがありましたが、現在の新司法試験合格者にはこの前期修習がありません。)ということが、役割として期待されています。例えば、法律相談、ローヤリング(学生が、一定期間法律事務所に派遣され担当の弁護士に同行して、生の事件を検討する等するものです。)、模擬裁判等の科目が設けられていましたが、これらの授業は、自分が法曹になったときのことをイメージしながら、また、生の事件に触れながら勉強できる良い機会であり、学生にとっては非常に刺激になる授業だと思います。

最後に、法科大学院の環境について述べたいと思います。私が通っていた法科大学院は、一人につき一席の固定席が与えられ、そこで24時間勉強ができるという環境にありました。入学者全員が、良き法曹になるという高き志を持って入学していることもあり、多くの学生が、夜遅くまで自習室に残り勉強していました。また、他の学生とは色々な勉強会を開催しましたし、時には、期末試験等の打上げやスポーツをするなどして、勉強とのバランスを上手く取れた生活ができていたと思います。
さらに、法科大学院の特徴的な環境として、社会人経験者の学生が多いということも挙げられると思います。私が法科大学院に在籍していた間は、医者や公務員の方など多様なバックボーンを持った方が多数いましたので、私のような社会人経験がなかった人間にとっては、そのような方と色々と話をするのは非常に楽しかったですし、その方々と話をすると、良き法曹になれるよう、決意を新たにすることができました。

まだまだ法科大学院の特徴についてはあるのですが、紙幅の関係もありますので、ここでは、大きく上記の3点について述べました。法科大学院在学中に私が経験したことは上記の3点以外にも多数ありますが、その中で、弁護士として仕事をしている今でも大切だと思うことは、常に問題意識をもって、枠にとらわれずに物事に取り組むということです。例えば、少人数の講義で議論をしていると、色々な視点からの質疑応答がされ、「そのような考え方があったのか」、「自分の考えは浅かったな」と、反省させられる場面がしばしばありました。そこで、私も、法科大学院時代から現在に至るまで、問題の細部まで検討した上、枠にとらわれずに、そこではどのようなことが問題になっているのかということを常に考えるように心掛けています。

冒頭で述べたとおり、現在、新司法試験の合格者数、予備試験の存在、法科大学院教育及び司法修習の在り方などについて様々な議論がされていますし、司法制度改革が、当初の計画通りに進んでいない面もあります。ただし、現在も、法科大学院で高き志を持って2年ないし3年間、勉強に励んでいる学生が多数いることは間違いありませんし、それは、私が2年間の法科大学院に通って実感したことでもあります。

(平成22年11月記)