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所属弁護士の声

2014.01.29

集合訴訟ってなんですか?(弁護士 日野義英)

消費者団体訴訟だけでは足りない?

消費者団体訴訟とは、事業者による不当行為(不当な勧誘行為、不当な契約条項の使用)が、不特定多数の消費者に対して行われている、又は行われようとしている場合、適格消費者団体が、かかる事業者の行為の差止めを請求することができるという制度で(消費者契約法第12条以下)、平成18年改正により導入され平成19年6月から運用されている。
しかし、この制度はあくまで事業者の行為の差止請求にとどまり、個別の被害回復に直接寄与するものではない。被害にあった消費者は自らが原告となって事業者を相手に訴訟を提起するなどしなければならない。そのためには相応の費用と労力を要し、かつ事業者との間に情報の質及び量の格差並びに交渉力の格差があることを踏まえると、個別に訴えを提起して被害の回復を図ることは非常に困難である。そこで、多数の消費者の請求権を束ねて行使することができる制度が必要といわれている。

現在検討されている集合訴訟の案は?

先日(2011年8月)、内閣府消費者委員会の集団的消費者被害救済制度専門調査会から報告書(以下、「今回の報告書」という。(注①)) が提出された。以下その概要を紹介する。
集団訴訟に関する諸外国の制度としては、①個々の権利者による授権ないし届出を必要としないオプト・アウト型(離脱型)、②授権ないし届出を要するオプト・イン型(参加型)、③両者の併用型があり、また、(ⅰ)訴訟をまず責任原因を審査判断する段階と、個々の損害額を審理する段階の二段階に分ける方法(二段階型)と(ⅱ)そうでない方法がある。2010年の集団的消費者被害救済制度研究会報告書(消費者庁)(注②)ではA案からD案までの4種類が提案されていたが、今回の報告書では、そのうちのA案が被害者を救済する制度としてもっとも実効性が高いとして、これを基本としつつ他案の利点も加味し、また、既存の民事訴訟制度との整合性も図りながら制度設計すべきとしている。同報告書の提案する制度は、二段階型で二段階目がオプト・イン型というものである。

◆一段階目の手続=事業者の責任の有無、事案によっては損害算定の方法等、共通争点について確認を求める手続

原告適格: 新たに認定を受けた適格消費者団体が訴えを提起する。一つの団体が提起したときは、同一の事件について、他の適格消費者団体による訴え提起は認めない(なお、共同訴訟参加はできるようにする。)。消費者が個人として訴え提起することを否定するものではない。
対象事案: 多数の消費者による請求権であって、

ア)契約を締結する場面に関する虚偽又は誇大な広告・表示に関するもの、

イ)同一の方法による不当勧誘、契約の解消に関するもの、

ウ)契約内容の不当性に関するもの、

エ)同一の瑕疵が存在する場合や同一の履行態様で提供された商品・役務の品質に関するもの

についての、不当利得返還請求権、債務不履行・瑕疵担保責任・不法行為に基づく損害賠償請求権等

審  理: 原則として、民事訴訟法の規律に従う。
判決の効力: 一段階目の手続の当事者の他、二段階目の手続に加入した対象消費者に対しても及ぶ。

◆二段階目の手続(簡易な債権確定手続の開始)=対象消費者の請求権の存否及び額を確定する手続

申立て: 一段階目の手続で勝訴した適格消費者団体とする。その後の手続も当該適格消費者団体が主体となって追行する。
開始決定: 裁判所は二段階目の手続の開始決定をする。
通知等: 適格消費者団体がインターネット等を利用した広告や対象消費者への通知等を行い、手続への加入を促す。
対象消費者の加入: 適格消費者団体から通知を受けた消費者は、当該団体に授権して加入する(直接手続主体とはならない。)。
時  効: 二段階目の手続への加入申出があった段階で一段階目の訴え提起時に遡って権利を行使したものとみなす。
審  理: 簡易な手続とし、対象消費者からの申出債権に対し事業者において異議がなければ請求権は確定する(これに関する裁判所の決定は確定判決と同一の効力を有するものとする。)。

異議申立がなされた場合には通常の訴訟手続として民事訴訟の規律に従う(最終的には判決)。

決定・判決 の執行: 適格消費者団体は、事業者から債権回収をし、任意に支払いに応じない事業者に対しては、決定または判決に基づき強制執行することもできる。受領した金銭から経費等を控除して対象消費者に分配する。

注①…http://www.cao.go.jp/consumer/history/01/kabusoshiki/shudan/index.html
注②…http://www.caa.go.jp/planning/pdf/100914body.pdf

米国のクラスアクションとどうちがうの?

米国におけるクラスアクションは、例えば、危険な製品等特定の原因によって多数の人に同様の被害が発生した場合に、共通の被害を受けた集団(クラス)を代表すると主張する者が、個々の被害者からの授権なしに、被害者集団(クラス)のために損害賠償を請求できる制度である。これにより、企業に対して、過度に高額の損害賠償請求がなされ、これに対応するための訴訟コストが米国企業の国際競争力を損なっているなどの弊害が指摘されている。
今回の報告書案では、訴えを提起できる主体は新たに認定を受けた適格消費者団体に限るとしているので、訴訟の濫用という弊害は回避できると考えられる(注③)。また、上記報告書案では、対象案件 についても(注④)、例えば個人情報流出事案(注⑤)や有価証券報告書等の虚偽記載等に関する事案等について、対象事案とするかなお慎重に検討すべきとされており、対象案件の面からも絞りをかけることも検討されている。
また、二段階目の手続では個々の被害者からの授権を必要としている点でも、米国のクラスアクションと大きく異なる(米国クラスアクションがオプト・アウト型であるのに対し、今回の報告書の提案のうち二段階目の手続はオプト・イン型である)。
なお、今回の報告書には触れられていないが、被害者の意見を反映させられるような手続、例えば、倒産手続における債権者集会やそれに代わる裁判所の許可のような制度もあった方がよいと思う。すなわち、配当金額等重要事項については被害者集団による決議または裁判所の許可を要するとすることにより、適格消費者団体の不誠実な処理を防止することができるからである。

注③…集合訴訟を担う適格消費者団体については別途認定を受けることを予定しており、当該審査において一定の絞りがかけられることが期待される。
また、現在制度化されている適格消費者団体による差止訴訟でもその濫用が禁じられている(消費者契約法第23条2項)が、それと同様の規定を設けることが考えられる。
注④…対象案件としては、同じ製品による製造物責任追及案件(集団食中毒等)、不当な契約条項による勧誘による被害追求案件(英会話学校の解約清算金不払条項)などが典型的な事案と考えられる。但し、拡大損害事案については、対象とすべきか否か議論がある。
注⑤… ハッカーによるコンピューターサーバーへの侵入という事案がときどき報道されている。ハッカーは、企業がいくら費用をかけて堅牢なシステムを構築してもさらにその網の目をかいくぐって侵入してくるものであり、これが集合訴訟に晒されるとしたら企業に対する影響は計り知れないこととなる。一方で、通常期待されるレベルのシステムすら構築していなかったことによる情報漏洩については、集合訴訟の適用を認めるべきだという見解もあろう。対象案件をどこで線引きするかは難しい問題である。上記の個人情報漏洩の例でいえば、企業として通常備えるべきシステムを備えていたときは当該企業に過失はないと判断できるので、かような事案では適格消費者団体は訴えを提起しないであろう。対象案件で線引きが困難なケースでは、適格消費者団体の適切な法運用に期待するというのも一つの方法ではないかと考える。

まとめ

集合訴訟が制度化されれば、被害者救済に向けて大きく前進する。しかし、以上のとおり、現在検討中の集合訴訟は、米国のクラスアクションとは大きく異なる制度を想定しており、弊害の多い米国のクラスアクション制度がそのまま日本に導入されようとしているわけではない。事業者にとっても、消費者個人から全国で多数の訴訟を提起されるよりまとめて対応できるというメリットもある。企業としては、これまでどおりコンプライアンス体制・リスク管理体制を整備し、さらに都度ブラッシュアップしていくことが大事であり、集合訴訟が制度として導入されるからといって特に戦々恐々とする必要はない。
悪質な業者の不当行為による被害者を速やかに救済することは当然のこととして、一方で企業の競争活動に対する影響等の弊害がないよう制度設計すべく、今後の立法の動向を見守っていきたい。

(2011年10月 記)

追記

平成23年12月、消費者庁から、集合訴訟制度の骨子 「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度の骨子」が 公表された。
http://www.caa.go.jp/planning/index10.html

これによれば、集合訴訟の対象として予定しているのは、

  1. 消費者契約が無効等の場合の不当利得返還請求権
  2. 消費者契約基づく履行請求権
  3. 消費者契約の締結又は履行に際してされた事業者の民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権
  4. 消費者契約に債務不履行等がある場合の損害賠償請求権

とのことであり、いずれも消費者契約に関係するものである。
従来対象とすべきかどうか議論のあった、個人情報漏洩事案や有価証券報告書虚偽記載事案などは、とりあえず対象から外れたようである。

追記2

「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」が成立し、平成25年12月11日に公布されました。
詳しくは消費者庁のHP(http://www.caa.go.jp/planning/index14.html)などをご参照ください。

(平成26年1月記)

 

(最終更新 2014年2月)