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所属弁護士の声

2014.01.29

公正取引委員会が日本トイザらス社に課徴金納付命令発令へ -優越的地位の濫用- (弁護士 日野義英)

 玩具販売大手の「日本トイザらス株式会社」がメーカーなど納入業者に安売りセールの値引きを負担させていたとして、公正取引委員会は独占禁止法違反(優越的地位の濫用)で7億数千万円の課徴金納付命令と再発防止を求める排除措置命令を出す方針を固め、事前通知したと報じられている(平成23年10月20日新聞各紙)。報道によると、日本トイザらス社は、平成21年頃から納入業者百数十社に対し、売れ行きの悪かった玩具を安売りする際に値引き額の一部を不当に負担させたり、在庫を不当に返品したりした疑いがあるとのことである。なお、日本トイザらス社は「不当な行為をしたとは考えていないが、事前通知を真摯に受け止め今後の対応を決定したい」としているとのことである。

 日本トイザらス社に対し正式に課徴金納付命令が出された場合、平成23年6月22日に株式会社山陽マルナカに対して出された(注①)のに続く2件目の優越的地位の濫用による課徴金納付命令となる。

注①…なお、山陽マルナカ社は課徴金納付命令を争い、現在審判手続に移行している(公取委HP)。

1.「優越的地位の濫用」とは(独禁法2条9項5号)

自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかの行為をすることとされている。
イ 継続して取引をする相手方に対して、当該商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること(購入・利用強制)
ロ 継続して取引をする相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
ハ 商品の受領を拒み、受領したのち当該商品を引き取らせ、取引の対価の支払いを遅らせ又はその額を減じ、その他相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は実施すること

報道のとおりの事実(売れ残り品の値引き額の一部を負担させる行為や、売れ残り在庫を引き取らせる行為)があったとすれば、上記ハに該当することは明らかである。

2.優越的地位の濫用に該当した場合の措置

事業者は不公正な取引方法を用いてはならない(独禁法19条)。
優越的地位の濫用行為に対しては、排除措置命令がなされる(同法20条)ほか、継続的に優越的地位の濫用行為を行った場合には、課徴金納付命令が命じられる(当該行為期間中(3年を上限)の売上金額の1% 同法20条の6) 。(注②)
そのほか、差止請求(同法24条)や損害賠償請求(同法25条)が可能である。
なお、刑事罰はない。

注②…平成21年改正により課徴金の対象となった。

3.「優越的地位」とは

「優越的地位」とは、市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく、取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りるとされている。甲との取引の継続が困難になることが乙にとって事業経営上大きな支障を来すため、甲が乙に対し著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合をいう。
報道によれば、日本トイザらス社の売上に依存する納入業者は弱い立場にあり、日本トイザらスの要求を受け入れざるを得ない状況だったということである。

4.「濫用行為」=「正常な商慣習に照らして不当に」「相手方に不利益を与える」こと

(1)「正常な商慣習に照らして不当に」とは

どのような条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられるものである。自由な交渉の結果、一方当事者にとって有利、他方当事者にとって不利な取引条件となることは当然に起こりうる話である。
しかし、優越的な地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに、相手方はその競争者との関係において不利となる一方、行為者は競争者との関係で有利となるおそれがあり、このような行為は公正な競争を阻害するおそれがある。すなわち、優越的地位の濫用における公正競争阻害性は、取引主体の自由かつ自主的な判断により取引が行われるという自由競争基盤が侵害される点にある。
日本トイザらス社も「不当な行為をしたとは考えていない。」とコメントしており、この要件の該当性に異論を唱える可能性に含みをもたせている。

(2)「相手方に不利益を与える」こと

優越的地位の濫用として問題となる行為類型として、購入・利用強制、金銭・役務その他の経済上の利益の提供、受領拒否、返品、支払遅延、減額、その他相手方に不利益な取引条件の設定・変更又は実施が挙げられている(独禁法2条9項5号)。
日本トイザらス社の取引業者に対する値下げ分を一部負担させる行為又は売れ残り在庫を引き取らせる行為が、納品後しばらく販売を行った後、売れ残ったことを理由に、もともとの売買契約の条件を変更して実施したものであれば、それは売り主側に一方的に不利益を課すものであり、契約自由の範疇を逸脱する不当なものであるといえる。一方、もともとの売買契約において、売れ残った場合の値下げの条件や売れ残り品の引き取りの条件が定められていれば、それは契約自由の範疇に入る可能性がある。

5.コンプライアンスについて(自主申告に関する若干の考察)

それでは、企業としては、優越的地位の濫用をなくすためにどうしたらよいであろうか。
日頃から、法令違反行為が起きないように、研修等社内教育を通じて社員を指導し、また最新かつ正しい情報を提供していくことが必要なのは当然である。
法務部門等が営業活動を監視することはもちろん、営業担当者が少しでも気になる取引については気軽に法務部門に問い合わせできる社内システムも確立も重要である。
それでも違法行為がなされてしまったらどうするか。直ちに是正することはもちろんであるが、弁護士などの専門家に相談するなどして、対処方法を検討する必要があろう。
ところで、優越的地位の濫用には不当な取引制限(カルテル、談合)において認められているリーニエンシー制度(注③)がない。したがって、自主申告しても何らのメリットもない、むしろ公正取引委員会に摘発される材料を与えるだけのようにも見える。
しかし、この点について、公正取引委員会の公表したパブコメ考え方によれば、独禁法2条9項5号と下請法の適用関係につき、「通常、下請法を適用することになります。」との回答がなされている(注④)。さらに、下請法違反事件にはリーニエンシー類似の運用がなされている(公取委平成20年12月17日公表)こともあり、下請法で規定する下請取引の範囲にとどまる限り(独禁法2条9項5号違反容疑による調査開始前であれば)、独禁法は適用しないとの回答もなされている。
要するに、企業としては、優越的地位の濫用に該当する事案を発見した場合、それが下請法の適用される事案であれば(優越的地位の濫用事案の多くは下請法の要件も満たすと思われる。)、積極的に自主申告(リーニエンシー類似)の申請をすべきこととなる。なお、カルテルにより多額の課徴金を課せられたという事案で、リーニエンシーの手続を怠った取締役に対し、課徴金額相当の損害を会社に負わせたとして株主代表訴訟が提起されている(注⑤)。

(平成23年11月1日 記)

注③…公取委に自主申告することによって課徴金の減免が受けられるという制度。
注④…独禁法と下請法は一般法と特別法という関係ではなく両者は併存する(下請法が独禁法を補完する)関係にあるところ、下請法は要件が形式的かつ明確であり適用が容易であることから、まず下請法が適用されることになるという趣旨であろう。
注⑤…平成22年5月21日、公正取引委員会は、住友電気工業に対し、光ケーブルカルテルに関し、67億6272万円の課徴金納付命令を発令した。これを受けて、同年12月1日、同社の株主が同社の取締役らに対し、リーニエンシーを利用しなかった過失があるなどとして、課徴金相当額の損害を賠償するよう株主代表訴訟を提起した。

追記

 平成23年12月13日、公正取引委員会は、日本トイザらス社に対し、排除措置命令及び課徴金納付命令(課徴金額3億6908万円)を行ったとのことである(公取委HP参照)。
参考:公正取引委員会ウェブサイト
報道発表資料|(平成23年12月13日)日本トイザらス株式会社に対する排除措置命令及び課徴金納付命令について
・日本トイザらス株式会社に対する排除措置命令及び課徴金納付命令について(PDF)

(平成23年12月15日追記)

追記2

なお、日本トイザらスは排除措置命令、課徴金納付命令に対し、審判を申し立て、現在審判手続が係属中である(公取委平成24年(判)第6号・第7号)。

(平成26年1月記)

(最終更新:平成26年2月18日)